0.  プロジェクトの成功率はなぜ向上しないか?

TaskTimer で行なうプロジェクトの「見える化」

 

0.  プロジェクトの成功率はなぜ向上しないのか?

 
 プロジェクトの成功率が向上していない。 
 しかし一方プロジェクト管理に関しては、その熱は高まる一方です。

 そしてその熱は、プロジェクト管理に関する新たな商売をも過熱させています。

 この第一次ブームとも言える状況は、2000年前後にアメリカから入ってきたPMBOK(プロジェクト管理の知識体系)から始まったと言ってよいですが、現在はその資格(PMP(プロジェクト管理プロフェッショナル))を取得するための受験講座・ゼミナーやその資格を維持するためのセミナーを中心とした商売が流行しています。

 ここでは、こういった流行を冷静に評価して、そこから見える課題を提起して行きます。

 
0.1 日経コンピュータの成功率調査から言えること

 日経コンピュータが、2003年と2008年に行なった、「プロジェクトの成功率」の調査をご存知でしょうか?

 2003年の調査結果は、日経コンピュータの誌上で公開されましたが、以下のような衝撃的な見出しで紹介されました。
 


「システム開発プロジェクトの成功率はわずか26.4%。本誌が大手から中堅・中小に至る1万2546社を対象に実施した調査で、衝撃的な事実が判明した。システム開発で守るべき3条件、すなわち「QCD(品質・コスト・納期)」をクリアできなかったプロジェクトが、全体のほぼ4分の3に達した。」


 
 そして、2008年に調査された結果に関しても、以下のような見出しで誌上公開されました。


「プロジェクトに成功する企業と失敗する企業の二極化が進んでいる――。
本誌が5年ぶりに実施したシステム開発プロジェクトの実態調査から、こうした現状が浮かび上がってきた。

全体の成功率は31.1%で5年前より4.4ポイント上昇。

しかし、率以上に変化したのはその内容だ。
成功企業と失敗企業の明暗を大きく分けたのは「測る」ことだった。」


 
 そして、この調査結果を表に纏めたのが、下に示す表です。
  

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 この表から読み取れることを書いて見ましょう。
 
 2003年の調査結果からは、文面を引用すると、


 プロジェクトの4件に3件は「失敗」していることになる。
 26.4%という成功率は、編集部の事前の予想を下回るものだった。プロジェクトマネジメントがちょっとしたブームになるなど、「プロジェクトの失敗を防ぐための試みはかなり定着してきた」と考えていたからだ。

 しかし、「これでもまだ成功率が少し高めに出ているのではないか」。千葉工業大学社会システム学部プロジェクトマネジメント学科の関哲朗助教授はさらに厳しい。「日本人の傾向として、『成功』とは言いづらいプロジェクトも『失敗』とはなかなか認めようとしない面がある」と続ける。


 
 つまり2003年の結果から言えることは、「プロジェクトの成功は、特定の20%のプロマネの貢献による。」ということです。

 これは、プロジェクトの成功率はパレートの法則(2:8の法則とも言います)に則っていることを意味しています。

 
 それでは、2008年の調査結果から言えることを、再び文面を引用すると、


 この算出方法から有効回答の814件を分析したところ、プロジェクトの成功率は31.1%だった。前回の26.7%より増加したとはいえ、四捨五入すればどちらも3割。著しい変化はなかったと言っていいだろう。

 この結果は意外だった。編集部では、5年間の状況の変化がプロジェクトの成功率向上に何らかの寄与をしているのではないかと予想していたためだ。本誌でも報道してきたように、システム開発を成功に導くための各種手法の登場、ユーザーとベンダーの関係の変化、市場環境の悪化によるコスト管理の厳格化など、この5年でプロジェクトの成功率に影響するような出来事は多々あったはずだ。

 しかし、それらは成功率を大きく変化させる要因にはなり得なかった。


中略


 ところが成功率以外を分析してみると、前回とは格段に異なる点が見えてきた。プロジェクトを定量的に管理する企業が急増しているのだ。

 「スケジュールの進捗を定量的に把握できる管理手法を導入している」「コストを定量的に把握できる管理手法を導入している」「成果物(ソフトやドキュメントなど)を定量的に把握できる管理手法を導入している」と回答した企業の比率は、前回調査の2倍以上に達した。

 進捗を測る企業は12.8%から29.9%に伸びた。実に3割もの企業が定量的に管理しているわけだ。コストは5.1%から14.8%に増加。進捗ほど割合は高くないものの、前回と比べ3倍近くの企業が定量管理している結果となった。成果物も8.7%から18.0%へ9.3ポイント上乗せした。

何もしない企業との差は歴然
 調査データからは、定量管理手法の導入とプロジェクト成功率の間には強い相関があることもわかった。QCDを定量管理する手法のうち、どれか一つでも導入した場合をみてみよう。その成功率は45.6%。平均成功率より実に15ポイント近く上がっている。


 
 日経コンピュータの編集部は、「定量管理手法」を導入している企業は、その成功率が格段に上がっているので、今後も期待できるという結論で結んでいます。

 しかし、次の表を見ていただきたい。

 

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 この表は、2003年時点で、「計測している企業」のプロジェクトの成功率を書き入れたものです。
 これはどのようにして導き出したのかと言うと、2003年時点で何も計測していない企業のプロジェクトの成功率を2008年と同じ(24.3%)とすると、すでに計測している企業(全体の12.8%)のプロジェクトの成功率が、実は、40.5%にすでに達しているということになります。

 このように見ると、5年間に、「(PMO導入などによる)管理工数が3倍に伸び」、なおかつ「PMBOKやPMPの資格、ITツールの導入」など、さまざまな手を打ってきているはずの企業のプロジェクトの成功率は、実は全く伸びていないということがわかるのです。

 つまりは、「プロジェクトを計測する」と言う方法でプロジェクトの成功率を上げることは、すでに2003年時点でサチッていたと言う事実です。

 この事実に目を向けずに、さらに「計測するために」管理工数や研修・教育・資格取得者数を増やすこと、つまり今の延長ではその努力のほとんどが無駄であると言う事実です。

 
0.2. 今の延長ではなぜダメなのか?

 プロジェクト管理を2つの側面から見てみましょう。

◆ 論理的側面
 データに基く状況を分析する
 データを示しながら論理的に説明する

◆ 情緒的側面
 現場に足を運び、生の情報やメンバーの声に耳を傾ける
 目に見えない状況や、メンバーの本音をも敏感に感じ取る
 メンバーとの共感性を育む

 つまり、プロジェクトマネジメント(=チームマネジメントと考えると)は論理的な側面と情緒的な側面の両面を調和させながら、マネジメントしていく必要があることになりますが、多くのプロマネはこの調和を図ることがうまく行っていないと考えます。

 以下に、論理的側面と情緒的側面を両軸とするマトリクスを書いてみました。

 これを見ると、非常に明確にこの「今の延長ではなぜダメなのか」と言うことを把握することができます。

 

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 このマトリクスは、パレートの法則を援用して書いています。
 パレートの法則によると、プロマネは以下のように分類されます。

◆ 「できる」プロマネ   : 20%
◆ 「普通の」プロマネ  : 60%
◆ 「できない」プロマネ  : 20%

です。

 「できる」プロマネは、日経コンピュータの調査でも明らかなように、組織的にプロジェクトを計測しなくてもプロジェクトを成功に導いているのですから、プロジェクトの成功率を左右するのは、60%を占める「普通の」プロマネでしょう。

 彼らを如何に「できる」プロマネに近づけることができるかがキーポイントでしょう。

 しかし、今行われている「仕組み」作りは、「情緒的側面はOKだが、論理的側面が苦手」なプロマネに効果的です。

 「普通の」プロマネのなかで、このような人たちは多く見積っても半分(全体の30%)でしょう。
 私見を書かせていただくと、プロマネの多くは「理系」の人で、コミュニケーションが苦手な人が多いと感じています。
 そうすると、全体の30%は覚束ないのではないかと思います。

 そのように考えると、「今の延長」ではどんなに投資を増やしても成功率は50%には行き着きません。

 2003年では40.5%、2008年現在では45.6%まで済んでいるわけですから、単純に言って、これ以上投資しても、『せいぜい4%程度しか底上げできない』わけです。

 しかも、この4%を達成するためには、今まで投資した以上の投資が必要になります。(それは、べき乗分布(パレートの法則)の特長です。 ちょっと計算してみればすぐに分かります。)

 
0.3 それではこれからは、何が必要とされているか?

 これから必要とされるプロジェクトの成功率を上げる施策は、大きく分けて2つあります。

 一つ目は、上のマトリクスから明白なように、「情緒的側面」を支援するツールの導入です。
 ツールと書いたのは、このマトリクスを見て、多くの人は「コミュニケーションの研修」だとか、「MBWA」の教育だと言った、「教育・研修・資格取得」を思い浮かべるのですが、元来コミュニケーションの苦手な人は、教育や研修を受けても得意にはならないからです。

 いくら教育・訓練を受けたからといって、普通の人には「東京から大阪まで歩いて移動する」ことは出来ないのです。
 だから、「クルマというツール」があるのと同じで、「情緒的側面」を有効たらしめるためには、教育・訓練も必要ですが、支援ツールを導入することがもっと必要なのです。

 支援ツールの目的は、コミュニケーションの「きっかけ作り」です。

 そして、二つ目は、プロジェクト管理というと、まったくこの観点が抜け落ちてしまっているのですが、「仕事の進め方の改善」です。

 この仕事の進め方とは、タイムマネジメントのことで、これを効果的に実践できるようになると、プロジェクトは少なくとも今の、5倍~10倍とは言いませんが、2倍程度の生産性を上げることが可能になります。

 しかしこの数字は、プロジェクトの生産性に携わっている人たちにとっては驚天動地の数字です。

 しかし、実際ほとんどのビジネスパーソンは、この仕事の進め方の教育を受けていないので、その威力を知らないのです。

 その例として以下のような事実をあげましょう。

 PMI日本支部といえば、日本のプロジェクト管理に関するデファクトを推進している組織ですが、この組織が主催する(2PDUのポイントがつく)プロジェクト管理のためのコミュニケーション力向上のためのセミナーの講演内容の解説文で、次のようなことが書かれています。

 「プロジェクト・マネジャーの仕事の9割はステークホルダーとのコミュニケーションに費やされると言われています。」

 だから、コミュニケーション力の向上のために、このセミナーを活用しましょう、という内容です。

 しかし、少し考えればこの解説文は、ありえないことが分かります。

 プロマネは、チームのこと、顧客のこと、プロジェクトのことを日々考えたり、したためたりする時間を確保しているハズです。

 しかしここに書かれているプロマネは、自分の仕事時間の9割もコミュニケーションに使って、一体何時こういったことを考える時間をとっているのでしょうか?

 自分の考えを持たないで、ステークホルダーと会議ばかりしているプロマネなどどこにもいませんし、もしいたとしたらそういった人がコミュニケーションのスキルを高めてもプロジェクトがうまく行くとは到底考えられません。

 もし、プロマネがそういった状況に陥っているのであれば、その対策はコミュニケーションスキルを向上させるのではなく、ステークホルダーとのコミュニケーションの時間を減らすためのセミナーを打つべきですね。

 このような「間違った仕事のすすめ方がまかり通っている」のも、多くのビジジネスパーソンが「仕事の進め方=タイムマネジメント」を理解していないからです。

 ちなみにタイムマネジメントの常識では、自分ひとりの仕事時間が3割を割ると、「繁忙感」が出てきてストレスが溜まってきます。 自分の考える時間が取れないのですから、当然ですね。

 上に書いたように、私達は今後プロジェクトの成功率や生産性の向上させるためには、

① 情緒的アプローチを支援すること

② 仕事の進め方の改善を支援すること

 が、必要と考えています。

 そして、この2つの施策を実現するために私達は、タイムマネジメントを実践するための考え方と実現を支援するTaskTimerというITツールを以下ご紹介してまいります。